私たちは教育格差の是正を目的に、2014 年から新宿区で食事つきの個別指導型無料塾「ステップアップ塾」を開塾しました。そこで見てきた教育格差の現実は、メディアで騒がれる所得起因の他に、家庭不和や学級崩壊などさまざまな要因が絡み合う複雑な社会問題でした。
その上で、私達が新たに気づいたことがあります。それは、子ども達の学力を高めるために本当に必要な学習支援は「教えてあげること」も必要ですが、それ以上に勉強と向き合うことの出来る「学習環境の提供頻度を上げること」だと言う現実です。
まず、以下二つの画像を見てください。
当塾には東京大学や早稲田大学、お茶の水女子大学や上智大学など国内有数の有名大学の学生達が毎年100人以上、大学の垣根を超えボランティア講師として登録をしてくれるため、例年一定の母数が集まる独自アンケートを取ることが可能です。
画像を見てもわかる通り、日本のトップ・エリート予備軍と呼べる彼らのうち、塾や家庭教師による学習サポートを受けていた学生は65%未満と大多数の人が抱くであろう予想より低い数値であることがわかる上、約3割は塾にも行かずそして家庭教師もつけないまま、受験に成功したと言うのです。
こう言ったデータを公開するとすぐ、「先生になるような人なんだから、そもそも賢いんでしょ?」と決めつける人も少なくないですが、日本の大学はたとえ上位校と言えども過去問などの学習時間に比例して合格出来るよう、出題傾向があると言われています。
その事実を別視点から裏づけるように、当塾の学生講師達は受験において最も重要な外的要因は「落ち着いて勉強できる空間」や「同じ志望校を目指す友人やライバル」にある、と断じているのです。
すなわち、彼らの言う「落ち着いて勉強できる空間」に「同じ志望校を目指す友人やライバル」を感じることのできる場所を具現化した学習環境が、食事つきの無料自習室「STUDY CAMP」と言っても過言ではないのです。
✅エリート学生を育てる環境や背景とは?
私はさまざまな媒体で自身の父親によるDV体験を告白していますが、子どもにとって家庭不和は勉強への集中力を乱すだけでなく保護者に対する反発心を育て、「尊敬の出来ない大人」として認識させることになります。たとえ子どものためを思っての言葉だとしても、「勉強をしろ」と言う強制は逆効果となり、子どもの学習意欲を削ぐ結果となるのです。
逆に上記アンケート結果を見てもわかる通り、学力の高い学生講師達の育った家庭において、家庭不和が匂う「常に問題を感じた」環境で育った学生講師は一人もいないのに対し、子どもの目線で問題がないと感じられる保護者の元で育った家庭は88.9%、つまり約9割に達するのです。
これはつまり、優秀な子どもを育てるために必要な要素は塾に通わせることよりもむしろ家庭で保護者等が争いを見せず、日常的に子ども達が安心して勉強ができるような学習環境を整えることが最も大切な証左と言えるでしょう。
✅塾に行かなければ良い大学に行けないと言う、「過剰な」思い込み
しかし日本では特に、有料塾などで「勉強を教えてもらうこと」が学力向上の秘訣かのごとくさまざまな場所で宣伝・広告が打たれるため、大学受験をしたことのない保護者や教育格差の渦中にある家庭の保護者は必要以上に同級生の塾事情を意識する傾向があるように感じています。そしてたいてい子どもの気持ちに寄り添うことのないまま塾に金をかけ、学力の上がらない理由を学校の教師や塾講師、または教材のせいにして塾を変えようとするのです。
しかし前述しましたが、過剰なお世話はむしろ子どものやる気と潜在的な能力を奪うだけです。また受験に特化した塾では正答率を求めるあまり、問題が「なぜ、そうなるのか」、出題者が「なにを、聞こうとしているのか」など、出題の意図を子ども自身が考える前にいわゆる「公式」を教えてしまう傾向すらあるため、気をつけなくてはなりません。「○分以上生徒が考え込んだら、答えを教えましょう」と言う対処をアルバイト講師に指導する塾も少なくないのです。
受験はそもそも目標となる学校への合格を目的に勉強するので、志望校合格を掲げた進学塾を一概に悪く言うつもりもありません。合格を目標とするのであれば、最も効率的なやり方を提案・指導していると考えられますし、歴史的に見ても「塾」の存在が日本人の学力を向上させてきたと言う功績もあります。一方で、合格のための効率的なやり方とは例えれば手品の指導でタネを先に教えるような方法でもあり、感動体験や失敗経験の少ない子どもを育ててしまう原因の一つでもあります。書店には「○○になりたければ××しろ!」と言うハウツー本が並び、学力は高くても想像力のない大人が増えてしまった社会の要因とも言えるでしょう。
これらの理由から私達は、家庭や学校などの社会的困難から寄り添いと見守りを必要とする子ども達のためにステップアップ塾の運営を維持・継続しながらも、同時に食事つきの無料自習室「STUDY CAMP」を全国に広め学習環境の提供をすることが、これからの次世代にとって必要不可欠な学習支援であり、我々の使命だと結論づけました。
目標は自習室の設置10,000箇所。各地での希望があれば、ステップアップ塾の現役学生講師達と自習室をオンラインでつなぎ、都内の有名大学生や高校生などによる学習指導も実現可能です。
コロナウィルス 禍の終息が図りかねる2021年度以後は特に、以前よりも教育格差が広がったと言われる現状を打破すべく、新たに利用対象者を高校生まで広げ、教育格差是正に向けた一層の努力を命の続く限り、頑張りたいと思います。
2021年2月吉日
NPO法人維新隊ユネスコクラブ 理事長
ステップアップ塾 塾長
濱松 敏廣